今回は無痛分娩についての話です。
いろいろと話題になることも多い無痛分娩ですが、実際には医師や助産師の間でも賛否両論あり知り合いの産婦人科や麻酔科の先生から様々な話を聞いてきました。ちなみにメリーでも無痛分娩をしていますが、基本的には経産婦さんを対象に、背中からチューブを入れて神経近くに麻酔薬を注入してお腹の痛みをとる硬膜外麻酔という麻酔を使って計画出産の形をとって行っています。これについても後で話をしていきます。
無痛分娩や、和痛分娩、麻酔分娩などいろいろと言い方はありますが、おおよそは硬膜外麻酔を使い、痛みを和らげるという方法は基本的には同じです。麻酔と言っても痛みをとるだけで寝てしまうことはありません。
なぜいろいろな言い方があるのかというと、無痛という言葉は痛みがゼロになるイメージを持たれてしまうことが多いのですが、実際の無痛分娩では若干の痛みが残ることもあります。
お産の痛みはかなり強烈な痛みなので、それが8、9割引きになったとしても強い痛みが残ったと感じる人もいるかもしれません。それで無痛ではなく和痛や他の言葉を使う病院も多いのです。
妊婦さんから時々聞かれる質問です。
「先生は無痛分娩をどう思いますか?勧めますか?危険ですか?」
これはとても難しい質問です。お薬を使う以上どんなに注意しても予測不可能な大変な事がおきる可能性はあります。どんな薬でも、たとえ風邪薬でも100%安全で何も起きない薬はありません。ただそれを理由に無痛分娩を勧めないというのは交通事故が怖いからドライブはやめましょう、とか飛行機も事故をおこすことはあるから旅行はすすめません、などといった極端な話のような気もします。
あとはお腹を痛めて産んだ方が赤ちゃんへの愛情がわく、お産の実感が得られる、だから無痛は勧めない、という話もよく聞く話です。実は私も以前はそのような考え方でした。でも知り合いの麻酔科の先生から「お腹痛めて産んだ方がいいのなら帝王切開も麻酔なしでやればいいじゃん、帝王切開で使う麻酔も100%安全じゃないんだから」って言われて驚きました。もちろんお産の痛みと帝王切開の痛みは全く同じではなく、お産は自然な痛み、帝王切開は手術の痛みという違いはありますが確かに筋が通っている話です。麻酔科の先生は無痛分娩を勧める先生が多い印象です。
最終的には妊婦さんとご家族の方でよく相談し無痛分娩をするかどうか考えていただいてます。
メリーで無痛分娩を計画出産としている理由は麻酔を安全にするためです。
計画出産では、子宮の出口にバルーンのような物を入れて子宮の出口を広げる、陣痛を起こす薬を使ってお産を進めるということをします。ほとんどの方は入院した翌日にお産になります。初産の方に無痛分娩をしていないのはお産に時間がかかる方がおり、計画出産が計画通りに行かないことが時々あるからです。計画出産に抵抗がある方もいるかと思います。もちろん陣痛をつけるお薬を使う以上絶対に何もないとは言い切れませんが無痛分娩でよく問題とされるのは麻酔の事故です。麻酔のチューブ、お薬が変な所に入っているのに気がつかず麻酔を続けてしまったのが事故の原因の多くを占めていると言われています。麻酔の安全を優先した場合は以下のような理由で計画出産の方が安全と考えています。
麻酔の準備
時間や医療体制の問題
重ならないための工夫
これらは私自身の考えであり他の産科や麻酔科の先生にはまた違った考え方の方もいらっしゃるかと思いますが無痛分娩を考えている方にとって少しでも参考になれば幸いです。
多様性の時代、押しつけの医療ではなく安全が担保できるのであれば医療にも様々な選択肢があるのが理想と思います。無痛分娩を希望される方、希望されない方、お産や育児授乳に関しても妊婦さんそれぞれの要望があると思います。多様なニーズに応えられるような懐の広いクリニックでありたいと考えています。
最後になりますが無痛分娩をした方からお産直後に言われた言葉「先生!こんなに楽なお産なら何人産んでもいいです!」少子化の時代、産科医にとっては最高の褒め言葉でした。
メリーでの無痛分娩の実際については無痛分娩についてをご覧下さい。